大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(特わ)510号 判決

本店所在地

東京都目黒区八雲一丁目五番七号

東洋娯楽機株式会社

右代表者代表取締役

山田貞一

山田俊夫

本籍

神奈川県川崎市丸子通二丁目四四二番地

住居

右同所

会社役員

山田貞一

明治三〇年六月一月生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官山同譲次、弁護人堀込俊夫出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告会社を罰金五〇〇万円に

被告人山田貞一を罰金一〇〇万円に

各処する。

被告人山田貞一において右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、被告会社および被告人山田貞一の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都目黒区八雲一丁目五番七号(昭和四一年四月一七日までは神奈川県川崎市丸子通二丁目四四二番地)に本店をおき、各種自動娯楽機械等の製作販売、児童遊園施設の設計施行およびその委託経営等を営業目的とする資本金三、〇〇〇万円(昭和三九年一月一七日資本金一、五〇〇万円を増資)の株式会社であり、被告人山田貞一は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているののであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上を除外して簿外預金を設定しあるいは仮空経費の計上を行う等の不正な方法により所得を秘匿したうえ

第一、昭和三八年一〇月一日から同三九年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が五、一二八万二、五六二円で、これに対する法人税額が一、八五〇万三、六〇〇円であつたのにかかわらず、昭和三九年一一月一六日神奈川県川崎市溝口四〇六番地所在の所轄川崎北税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二、六三九万一一一円であり、これに対する法人税額は九二二万九、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額九二七万四、二〇〇円を法定の納期限までに納付せず、もつて同額の法人税を免れ、

第二、昭和三九年一〇月一日より同四〇年七月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が四、七七一万八、一五一円であり、これに対する法人税額が一、六六二万六、二〇〇円であつたのにかかわらず、昭和四〇年九月二五日前記川崎北税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二、五六三万四、三七三円でありこれに対する法人税額は八四六万二、二三〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額八一六万三、九七〇円を法定の納付期限までに納付せず、もつて同額の法人税を免れ

たものである。(判示各事業年度における所得の内容は別紙第一、第二の修正貸借対照表記載のとおりである)

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書八通および検察官に対する供述調書二通

一、被告人の提出書六通および上申書

一、被告会社に関する登記簿謄本二通

一、証人吉田実の当公判廷における供述(第二回、第五回公判)

一、大蔵事務官百木敏郎作成の銀行調査書類五通

一、高井初恵の検察官に対する供述調書

一、高井清の検察官に対する供述調書

一、山田俊夫の大蔵事務官に対する質問てん末書四通および検察官に対する供述調書

一、山田数夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、山田たまの上申書

一、斉藤真一の上申書

一、吉田実の大蔵事務官に対する質問てん末書および上申書

一、目黒税務署長の証明書三通(三九・九期および四〇・七期の各法人税決議書、青色申告の承認取消に関するもの)

一、押収してある以下の証拠物件(いずれも当庁昭和四三年押第三九六号、末尾のカツコ内の数字はその符号番号)経費明細帳三冊(1、2、4)元帳一冊(3)、総勘定元帳一冊(6)、法人税等申告控一綴(7)、千葉県八千代町土地関係書類第一袋(8)、借用証等二綴(9の1ないし2)立替金等メモ一枚(10)、家計簿五冊(15の1ないし5)、法人税確定申告書二綴(19、20)、逗子土地関係書類一袋(21)

(弁護人の主張に対する判断)

一、特定公共用地買収の損金算入否認分(別紙第一の修正貸借対照表勘定科目欄39の特定公共用地買収の損金算入、以下単に第一39等と略記する)について

(一)  逗子新宿の買収土地に対する補償金中七〇〇万円の損金算入否認分について。

被告会社は、昭和三九年三月二〇日、その所有する神奈川県逗子市大字新宿二、二一〇の七所在の土地一一六坪九合を日本道路公団東京支社より二級国道一三四号線湘南道路の建設用地として買収されたが、その補償金につき、租税特別措置法(昭和四〇年法律第三二号附則一六条により収正前のもの。以下同様)六五条の三による特定公共事業に関する課税特別条項の適用ありとして金七〇〇万円を損金に算入している。

弁護人は「右損金算入は、右土地の買収にさいし、被告会社が道路公団の係員から租税特別措置法の前記特例条項の適用がある旨の説明を受けていたうえ申告にさいし所轄税務署からその適用がある旨回答を得たことに基づきなされたものである。したがつてこの部分については脱税の認識を欠きほ脱所得を構成しないものと解すべきである」旨主張する。

しかしながら、右のような事案において、前記の課税特例が適用されるためには、特定公共事業のうち、二級国道については車道の幅員が九メートル以上の区間に該当する事業で起業者が建設大臣の認定を受けることを要するところ(公共用地の取得に関する特別措置法二条一号、同法施行令一条一項)、右買収用地は道路の有効幅員が七・五メートルであつたこと、従つて所定の認定は受け得ないことが関係証拠により認められるから、被告会社の前記損金算入の措置は、税法上とうてい認容し得ないものである。よつて税務計算上右損金算入分は否認されるが、被告会社は公表分のみに基づいて右の七〇〇万円を損金算入し、さらに租税特別措置法六四条の二の特別勘定繰入を行つていたので、実際額により計算し、その差額三、二一六、二一〇円を減算する(第一42特別勘定)。

ところで過少申告ほ脱犯において、故意の成立には脱税額すなわち申告税額から正当な税務計算に従つて算出された税額との差額を確定的に認識することを要せず、当該申告額が正当税額に比し虚偽過少であること、換言すれば申告所得額が正当な所得額に比し虚偽過少であることを概括的に認識すれば足り、所得の計算にあたつて用いられる勘定科目の個々につき、故意の成否を論ずべきものではないと解する。けだし、法人税の課税標準たる法人所得は、各事業年度ごとに単一の客体と観念されるべきで、その計算は基本的には各事業年度の益金の額から損金の額を控除して行われるが、本件におけるような財産増減法による計算もまた所得金額算定の一方法なのであつて、その算定のいわば技術的な要素である個々の勘定科目を法人税ほ脱犯の本質的な構成要件要素と解することには疑問があるからである。従つて前述のような概括的認識があれば特段の事情がない限りほ脱額の全額につき過少申告ほ脱犯が成立するものと解される。

本件において被告人が詐偽不正の手段により過少の虚偽申告をなしたことは関係証拠によつて明らかであるところ、前記損金算入の措置は、税務計算上許容されないものであるばかりでなく、さらに関係証拠によれば、買収当時、当該用地が二級国道であつてその車道幅員が七・五メートルであることは、被告会社の代表者において熟知されていたのであり(とくに山田俊夫の供述および前掲逗子土地関係書類中「湘南道路工事計画概要」および「コニーランド附近平面計画図」)、また日本道路公団からは、右事業に関し、特定公共事業用資産の買取りの証明書が交付された事実はなく、単に用地等の買収契約の補償金であることの証明書が交付されたに止まる。さらに、日本道路公団や所轄税務署が右課税特例につき被告会社に対しなんらかの回答をなしたことはうかがい得るとしても、右工事計画の詳細を聴取した上同条の適用がある旨説示し、あるいは課税特例条項を適用するよう誘導した事情等は全く認められない。以上の諸点その他諸般の事情をあわせ考えるならば、右損金算入否認分をほ脱所得額から除算すべき特段の事情はないというべきである。

よつて、故意の阻却を理由に右の不当な損金算入を是認すべし、とする弁護人の主張は採用しない。

(二)  日本国有鉄道東京幹線工事局からの補償金二一七、六三八円の否認分について

弁護人は「右否認分は法令を誤解した結果鉄塔の移転補償金を対価補償金であると誤解して経理したものであるからこの部分については故意がない」旨主張する。右鉄塔は仮設のものでありしかも補償金は移転費用のそれとして支払われていたのであつて対価補償金と解すべき根拠はどこにもないのに、被告会社がこれを損金算入したことは明らかに不当といわねばならず他にこれをほ脱所得より除算すべしとすと特段の事由もないから、弁護人の主張は採用しない。

二、その他の否認分について

弁護人は「第二の事実中前払金一、〇〇〇、〇〇〇円(別紙第二7)減価償却超過額、二、三五四、六五〇円(同第二41)未経過費用四二六、四四〇円(同第二47)については企業を維持経営する立場から行う申告と専ら徴税を眼目とする税務署の立場からみるとの差であり、これらの部分については不正な方法により所得を秘匿したものでなく脱税の意図もない」旨主張するので、以下順次関係証拠に照らしつつ検討する

(一)  前払金一〇〇万円(別紙第二7)について

昭和四〇年五月一一日南部鉄工に対する前払金一〇〇万円の計上洩れに関するものである。右前払金は後に貸倒れに帰したから税理士が計上しなかつたというのであるが(吉田実の公判供述第一回)右前払金返還債権が貸倒れになつたような事情は存せず、また貸倒れとしての経理処理すらなされていないのである、従つてこれをほ脱所得より除算する理由はない。

(二)  減価償却超過額二、三五四、六五〇円(同第二41)について。

右額の明細は

(イ) 仕入商品中資本的支出と認められる遊戯器具に関する出費四一五、〇〇〇円

(ロ) 通信費中資本的支出と認められる電話設備に関する出費二四九、八〇〇円

(ハ) 工場機械設備等の耐用年数の適用違い分一、六八九、八五〇円

であつて、(イ)、(ロ)については経費と認め得ないことは明白であり、(ハ)の過少申告分についてもむしろことさらに会社に有利に計上したことがうかがわれるのであつて、いずれもこれをほ脱所得より除算する理由は認められない。

(三)  未経過費用四二六、四四〇円(同第二47)について。

右額の明細は

(イ) 雑費中日産火災保険会社に支払つた施設用具賠償責任保険料のうち未経過分一四〇、〇〇〇円

(ロ) 支払利息中未経過分二八六、四四〇円

の計上洩れであるが、これを現実主義によつて処理するならばともかく、かかる未経過費用は発生主義をとる税務会計慣行上当然計上を要すると解されるのであつて、これをことさら計上外としなければならない事情は認められない。

以上の次第で弁護人の各主張はいずれも採用しない。

(法令の適用)

判示第一の事実につき、昭和四〇年法律第三四号法人税法附則一九条により改正前の法人税法四八条、被告会社につきさらに同法五一条一項。判示第二の事実につき、昭和四〇年法律第三四号法人税法一五九条、被告会社につきさらに同法一六四条一項。

併合罪加重につき、各刑法四五条前段、四八条二項。

換刑処分につき刑法一八条。

訴訟費用の負担につき、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別紙第一 修正貸借対照表

東洋娯楽機株式会社

昭和39年9月30日

〈省略〉

別紙第二 修正貸借対照表

東洋娯楽機株式会社

昭和40年7月31日

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例